「時間」は本当に共有されているのか
きっと、長い時間が経った。
そんな感覚は私には無いけれど。
世界で共有しているつもりである「時間」と呼ばれるものでは前に進み続けている。
どうやらその「時間」は不可逆であるらしい。
暗闇の中、1つの炎。
積もっていく灰。
ライターのオイルは減る一方であるのに。
分岐
暗闇の中、一人佇んでいる。
「一寸先は闇」という言葉があるけれど、
一寸先さえ見えればまだましだとすら思えるほどの暗闇。
そんな中でも足元だけは見える。
いくつか道の分岐点にどうやら私はいるらしい。
どの道を選ぼうか。
はたまた、このままこの暗闇の分岐点で佇んで居ようか。
道の先に光が見えるほうへ歩むべきだと思うが、
そんなものも見当たらない。
歩んだ道をなかったことには出来ない。
選択は一度きり。
この場合、何を選択するべきか。
それは己の判断で決めるしかない。
判断基準がないのであれば、自分を信じて、正しいかもわからない道を歩むしかない。
留まることで得られるものは何もないからこそ、進み続けるしかない。
選択し歩んだ道が間違っていたとしても後悔だけはしてはならない。
あの時の暗闇の分岐点で、勇気と恐怖をもって選択をした自分を責めてはならない。
自分自身を嫌いにならないためにも。
更に先にあるであろう分岐点で、勇気をもって一歩踏み出せるようになるためにも。
私はそう考えながら、今もまだここで佇んでいる。
いつか、踏み出せるだろうか。
どの道を選択しても最後は一つの死にしかつながっていないというのに。
両想い
ある夏夜
彼女は未だ帰ってこない。
地球が一巡し、夏の涼しさが戻る。
心地いはずの夏夜の涼しさも、今では鬱陶しく、身体が縮こまるのを感じる。
今、私の見える世界はモノクロで味気ない。
激しく心を揺さぶるものは今は無く、ただ無情に時間だけが過ぎてゆく日々に呆れつつある。
エアコンもつかない部屋で窓を閉め、汗を流し体を重ねた。私はその時、今こそが全てて、幸せで、正しいと思っていた。きっと正しかったはずだ。
正しかったかは誰にも分からない。「きっと」
を、毎日疑い続け、気がつくと1年ほど経っていた。それはもう、間違っているよ。
彼女が置いていた薬の瓶に手を伸ばし
一錠つまんで口に放った。
誰もいない静かな部屋で、水を飲み込む音だけが響いた。