ある夏夜
彼女は未だ帰ってこない。
地球が一巡し、夏の涼しさが戻る。
心地いはずの夏夜の涼しさも、今では鬱陶しく、身体が縮こまるのを感じる。
今、私の見える世界はモノクロで味気ない。
激しく心を揺さぶるものは今は無く、ただ無情に時間だけが過ぎてゆく日々に呆れつつある。
エアコンもつかない部屋で窓を閉め、汗を流し体を重ねた。私はその時、今こそが全てて、幸せで、正しいと思っていた。きっと正しかったはずだ。
正しかったかは誰にも分からない。「きっと」
を、毎日疑い続け、気がつくと1年ほど経っていた。それはもう、間違っているよ。
彼女が置いていた薬の瓶に手を伸ばし
一錠つまんで口に放った。
誰もいない静かな部屋で、水を飲み込む音だけが響いた。